そんな中、ほとんどの小中学生が助かった「釜石の軌跡」が、岩手県釜石市で起こりました。
今回は、この釜石の奇跡を生んだ「津波避難3原則」を紹介します。
人間には「正常化の偏見」という、危機になっても自分だけは大丈夫だという偏見があるそうです。
普段は、この偏見が自分を信じる「自信」となり、心に勇気を与えてくれるものかも知れません。
ところが、大災害、特に津波の時には、「自分だけは大丈夫。だから、まだ避難しなくても大丈夫。」
あるいは、「ここまで、避難すれば大丈夫。」という正常化の偏見をもってしまい、最悪の場合、逃げ遅れ、津波の犠牲になってしまいます。
そこで、東日本大震災で「釜石の奇跡」を起こした群馬大学の片田敏孝教授は、「津波避難3原則」を、東日本大震災前から提唱していました。
第1は、「想定にとらわれるな。」です。
東日本大震災では、従来想定されていた津波高をはるかに超える大津波がやってきました。
ハザードマップなどの想定にとらわれ、自分の場所は大丈夫と判断した人々は津波の犠牲になりました。
ハザードマップは目安であって、絶対に安全というものではありません。
第2は「最善を尽くせ」です。
想定にとらわれず、少しでも安全な、できる限り高い場所へ避難する、その時できる最善を尽くせという教えです。
最後の3番目は、「率先避難者たれ!」です。
自分が1番最初に逃げ出せ。それも、できるだけ周りの人に「逃げろ」と呼びかけながら逃げろという教えです。
人間の心は弱く、「自分だけは大丈夫」「最初に逃げたら恥ずかしい」と思いがちです。それを打破するのは、避難者のリーダー、率先避難者だとい教えなのです。
片田先生の教えを守った釜石の小中学生は、想定にとらわれず少しでも高いところへ、自分のできる最善を尽くして逃げました。
しかも、まわりの子供たちや大人たちにも避難を呼びかけながら、率先して逃げました。
約3000人の釜石の小中学生が助かり、まわりの大人たちの多くの命も救われました。
「勇気を出して津波から逃げる」という、釜石市の防災アドバイザーとして震災前に教えていた片田先生の教えを守った小中学生が、「釜石の奇跡」を起こしたのです。
<写真:東日本大震災で津波から避難する釜石市の子供たち>
東日本大震災以降、気象庁では次の基準で、津波警報や津波注意報を発表しています。
大津波警報 | 高さは「巨大」と表現し、「直ちに高台に避難」と呼びかける。 |
津波警報 | 高さは「高い」と表現し、「直ちに高台に避難」と呼びかける。 |
・ 第2報(約15分後)
発表される高さ | 発表基準 | |
大津波警報 | 10m超 | 10m < (予想高) |
10m | 5m < (予想高) ≦ 10m | |
5m | 3m < (予想高) ≦ 5m | |
津波警報 | 3m | 1m < (予想高) ≦ 3m |
津波注意報 | 1m | 0.2m ≦ (予想高) ≦ 1m |
以前にも紹介しましたが、地震情報から、津波の発生の有無を判断できる基準があります。
気象庁の予報官の話によると、「おおまかに言うと、津波が発生する恐れがある地震は、震源が海で、震源の深さが60kmより浅く、マグニチュード(地震の規模=M)が6.5以上の地震」だそうです。つまり、津波の有無は、震源の位置・深さと、マグニチュードの3つの要素で決まり、揺れの強さを表す震度の大きさは関係ないのです。
2011年3月11日の東日本大震災は、震源は三陸沖(海)で震源の深さは24km、マグニチュードは9.0と、津波の3要素をすべて満たしており、特にマブニチュードが日本の観測史上最大であったことで、大津波が発生し甚大な被害が発生しました。この地震の最大震度は7(宮城県)です。
一方、1995年1月17日に発生した阪神淡路大震災は、震源が野島断層(六甲から淡路島にかけての断層でほとんどが陸)で、震源の深さは16km、マグニチュードは7.3で、最大震度は7(兵庫県神戸市)です。この地震の揺れは、非常に大きかったのですが、震源がほとんど陸地だったため津波の発生はありませんでした。
震源の位置、深さ、マグニチュードが、津波発生の有無を決めるのは、ほぼ確実です。
ただし、個人個人が判断する場合、いくつかの注意点があります。
(1) 情報が確実に入るかどうかわからないので、津波の恐れがある沿岸部などで
地震を感じたら、まずは、「釜石の軌跡」の津波避難3原則を守って、少しでも高
いところへ逃げるのが安全です。
(2) テレビ・ラジオや防災メールなどで情報が入っても、最初の段階の情報はあく
まで「推定」なので、鵜呑みにせず、念のため安全側の行動をとることが大切で
す。
ちなみに、東日本大震災の最初の発表のマグニチュードは7.6でしたが、最終
的にはM9.0になりました。
(3) 1960年のチリ津波(南米チリで発生した地震で、数十時間後、国内で大津波
を観測)のように、まったく揺れのない外国の地震でも津波が発生することがあり
ます。これを、遠地津波と呼んでいます。
津波や地震について、普段からよく学び、きっちり備え、十分に訓練しておくこと。そして、「勇気を出して逃げること」が、いざという時に、あなたにも「奇跡」を起こすことになるはずです。
東日本大震災が起こったこの時期に、もう1度、津波避難について、チェックしましょう。
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