最近、思うことがあります。
沈黙は勇気なんでしょうか。それとも弱気なんでしょうか。
あるいは---?
ハワイに、「ナンヨウ エンマコオロギ」という名前の、鳴き声が美しいコオロギがいます。
オセアニアからやって来たこのコオロギのオスは、美しい鳴き声でメスを呼び、繁殖をします。
ところが、自分の美しい鳴き声が、ハワイではとんでもない敵も呼び寄せてしまいます。
北アメリカからやってきた、「オルミア・オクラケア」という寄生バエです。
このハエは、コオロギの鳴き声で居場所を見つけて、コオロギの体に卵を産み付けてしまいます。
このハエの卵は、コオロギの体の中で幼虫になり、コオロギの体を食べて育って1週間ほどで成虫になります。もちろん、コオロギは死んでしまいます。
この小さな強敵に対抗するために、ハワイのナンヨウエンマコオロギのオスの一部がとった戦略が、沈黙です。
二十世代(コオオロギの1世代は数週間)ほどで、「鳴かない」のではなく、鳴く機能そのものを失くした「鳴けない」コオロギが誕生しました。
鳴けないことで、寄生バエに自分の位置を教えないという方法をとったこのハワイのコオロギを、「収斂進化(別々のグループや個体群が自然選択への応答で独立に似た適応を進化させること)」と呼ぶ生物学者もいます。
現在、ハワイ・オアフ島のナンヨウエンマコオオロギのオスの半分は。鳴かなくなったそうです。
<エンマコオロギ>
ここで、2つの疑問があります。
1つ目は、鳴かなくなったコオロギは、どうやってメスを引き寄せるのでしょうか。
2つ目の疑問は、このコオロギの「沈黙」は、勇気(進化)なのでしょうか、それとも弱気なのでしょうか。
人間世界にも、似たようなことって、ありますよね。
自分を正当化、あるいは自分を主張するために、他人を誹謗中傷する噂を流す人たちがいます。
これに対して、同じことをすれば中傷合戦になるので、相手にせずに「沈黙」を選択する人がいます。もちろん、沈黙にも勇気が必要です。
でも、沈黙を守ると、図にのって誹謗中傷する連中もいます。これはもう「いじめ」だと思います。
この場合、本当の勝者は、大声で「主張」する人でしょうか、それとも「沈黙」する人でしょうか。
私は、「声をあげること」も勇気だと思いますが、「沈黙」も勇気であると思います。
原発、国際紛争、テロ、いじめ、ブラック企業---。
虫の世界と人間世界。
共通しているような気がして、桜の花の散ったあとのグリーンの木を見ながら、沈黙の中で考えている、今日この頃です。
シェークスピアの名作「ハムレット」の中の有名な言葉に、「The rest is silence.(
あとは沈黙)」があります。
後藤健二さんやキング牧師、そして大河ドラマ「花燃ゆ」の吉田松陰のように、亡くなっても沈黙の中で語りかけてくる人たちもいます。
「沈黙」について、もう少し考えてみたいです。
・ 身はたとひ 武蔵の野辺に朽ちぬとも 留め置かまし 大和魂
(吉田松陰 辞世の句)
・ 一瞬で 春を知らせて 散る桜 あとは沈黙 緑の中で
(自作)
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