オリンピックと台風のことを交互に書いてきた2016(平成28)年の夏から初秋でしたが、一方で、神奈川県相模原市の「津久井やまゆり園」で障害者19人が殺害される事件や、同じ神奈川県横浜市の「大口病院」で点滴に消毒剤が混入されて殺害される事件など、「やさしい時代」の終焉(しゅうえん)のような、忘れてはいけないショッキングな出来事もありました。
こんな社会的弱者への凄惨な事件が起こると、ヒットラー率いるナチスが行った「T4作戦」がよく取りざたされます。
実際、「津久井やまゆり園障害者殺傷事件」の犯人、植松聖(うえまつ・さとし)容疑者は「ヒットラーの思想が降りてきた」と話しています。
「優(やさ)しい時代」とは、1978(昭和53)年にNHKで放送されたドラマ(脚本:日向正健、出演:篠田三郎、壇ふみ 他)のタイトルです。
この年は、高度経済成長(1958年~1973年)のあとの「オイル・ショック」(1973年)から日本経済がやっと立ち直り、日本テレビの番組「24時間テレビ~愛は地球を救う」が始まった年です。
この番組によって、「日本赤十字社」などの公的機関に頼らない「民間募金」が、テレビで本格的に始まりました。
一方で「学生運動」が過去のものになり、大学のキャンパスでは、アリスやチューリップなどの「ニューミュージック」や、山口百恵・榊原郁恵・郷ひろみなどのアイドルの歌が流れていました。
因(ちな)みに、この年は伝説の歌番組「ザ・ベストテン」(TBS、司会:久米宏さん・黒柳徹子さん)が始まり、キャンデーズが解散、サザンオールスターズがデビューし、デイスコ・ブームが始まった年でもあります。
この年に生まれた有名人としては、澤 穂希(さわ・ほまれ 女子サッカー選手)さんや中村俊介(なかむら・じゅんすけ 男子サッカー選手)さん、DAIGO(ダイゴ 歌手)さん、浜崎あゆみ(歌手)さん、井上康生(いのうえ・こうせい 柔道)さん、菊川怜(きっかわ・れい 女優・司会)さんなどがいます。
携帯電話会社のCMで紹介されている「1980年代後半のバブル期」を控えて、みんなに優しく平和な「やさしい時代」の始まりだったのが、この年かも知れません
この頃から40年近く続いた、みんなに「やさしい時代」が、今、終わりを向かえようとしています。
今回から断続的に「やさしい時代をあきらめないで」というタイトルで、「やさしい時代の終焉」を思わせるニュースを取り上げ、いろいろと問題点を考えてみたいと思います。
1回目は「相模原市の障害者殺傷事件とナチスのT4作戦」についてです。
<津久井やまゆり園(神奈川県相模原市緑区)>
「相模原障害者殺傷事件」は、2016(平成28)年7月26日午前2時から3時頃、神奈川県相模原市緑区にある障害者施設「津久井やまゆり園」で発生しました。
元職員の植松聖(うえまつ・さとし)容疑者が園に侵入し、職員を拘束した上、ナイフなどの刃物で、重度の障害者を中心に計45人を刺し、男性9人と女性10人が死亡、男女20人が重傷、6人が軽傷を負いました。
死亡した19人の年齢は、18歳〜70歳でした。
植松容疑者は、2012(平成24)年12月から2016(平成28)年2月まで、「やまゆり園」で働いていました。
もともと、子供好きで父親と同じ小学校教員をめざしていましたが挫折し、その後は「福祉」の仕事ということで「やまゆり園」を希望しで働いていました。
ですから本当は「やさしい人」だったのだと思います。
ところが、重度障害者の世話の大変さに挫折し、2016年2月には「障害者に安楽死を」という手紙を衆議院議長の公邸にもっていったことがきっかけ(安倍総理にも渡そうとしましたが渡せませんでした)となって、施設から解雇され障害者福祉法に基づく措置入院させられました。
その措置入院中に、ナチスが障害者を殺害した「T4計画」を知り、「ヒットラーの思想が降りてきた」ことで、障害者たちの大量殺害を計画します。
もちろん、植松容疑者の残虐極まりない行動は、厳罰に処せられるべきだと思いますが、この事件にはいろいろな問題が背景にあると思います。
私は学生の頃、障害者施設へボランティアで訪問したことがありますが、「弱くてかわいそう人たちに優しく接する」という最初の「上から目線」のイメージとは違って、障害者の人たちは予想以上にしっかりしていて、施設の人たちにも「できることは自分でさせて、手伝わないように」と言われました。
甘やかしてはいけないということでしょうが、1人1人の障害者の人たちも自立しようと必死でした。
「やさしい」「お情け」だけでは、接してはいけない世界でした。
「やまゆり園」の元職員の話では、報酬は決して高くなく、勤務は過酷で宿直は月に4回、深夜までの勤務や早出もあって、いつも疲れていたそうです。
さらに、テレビを棚から落としたり、電灯を割ったり、暴れたり噛みついたりしても抵抗できない、とても大変な介護の仕事というのが、現実だそうです。
植松容疑者も、最初に志した時の「ボランティアの延長」的な甘い気持ちを粉々に砕かれ、言うことを聞かない障害者に切れてしまいました。
ついには「こいつらは生きていても役に立たない邪魔者。この世から安楽死させた方がいい。」という気持ちになって、「ナチスのT4作戦」に同調するようになりました。
(7月のあの日 平和に咲くアサガオ)
ナチスの「T4作戦」とは、第二次世界大戦中にナチスドイツで進められたもので、知的障害者や身体障害者、精神障害者などは、社会には「無用」であるばかりか、アーリア人の遺伝的な純粋性を脅かす存在である。
つまり、「生きる価値のない人間」と見なされ、殺害されたました。
ユダヤ人殺戮のモデルとも言われる作戦で、1940(昭和15)年から1945(昭和20)年までに、約20万人の障害者が殺害されました。
このナチスの歴史を知った植松容疑者は、ヒットラーに共感し、自らが障害者を殺害し「英雄」になろうとしました。
この考えに基づき、拘束した職員を同行させ、「重症」の患者から殺害しました。
ここで問題なのは、弱い抵抗できないものを選んで植松容疑者が殺傷した点と、「津久井やまゆり園」の勤務体制が、決して特別に悪いものではなく、県立の園の勤務はむしろ恵まれていて、もっとひどいところがたくさんある点です。
事件のあった2016年7月26日未明、「やまゆり園」には警備員1人、職員8人が勤務していました。
入所者定員160人(4月末で149人が入所)に対して、この数が多いか少ないかは議論を要すところですが、他の施設と比べれば、まだ県立で恵まれている方だと思います。
(たとえば、台風10号で9人が死亡した岩手県岩泉町のグループホーム「楽ん楽ん」で、台風の夜に泊まっていた職員は、所長1人だけでした。)
一方、2016年春に、「やまゆり園」がハローワークを通じて出した求人では、昼間の「世話人」が時給970円~1070円だったのに対して、「夜間専門生活支援員」の時給は905円で神奈川県の最低賃金と同じでした。
昼間より夜間が安いのには違和感を感じますし、ハローワークを通じて募集できる最低の時給905円では、夜間の生活支援員の人材レベルは、押して知るべしだと思います。
それでも、時給905円が本当にもらえていたとしたら、他の施設よりもまだ恵まれている方だと思います。
さきほど紹介した「やまゆり園」の元職員は、「仕事の環境の厳しさの中では、職員みんなが多かれ少なかれ、『施設の障害者が暴れたり面倒をかけたりせず、眠っていてくれたら楽なのに』と、思ったことがあるはず。」と話しています。
介護は、「高齢化社会」や「やさしい時代」の象徴だと言えますが、やっぱり現実は厳しいものです。 今でも、親や配偶者を、介護疲れで殺害する事例があとをたたないのが現実です。
それでも、「やさしさ」を社会みんなで支援し、高齢者や障害者など弱い立場の人たちを社会から排除せず、大切にする「やさしい時代」をあきらめてはいけないと思います。
<写真 海と空と島々>
最後に、殺傷事件後に「津久井やまゆり園」で献花をした、見形信子さんの話を紹介します。
見方さんは、NPO法人自立支援センター「くれぱす」の事務局長で、自身も筋肉の力が衰える難病と闘い、16年間に渡って自立支援施設で暮らした経験があります。
彼女は、「加害者の名前や生い立ちは報道されるのに、殺害された19人は名前さえ公表されないのはおかしい。」と語っていました。
<自作詩>
「やさしい時代をあきらめないで」
戦争は過去のもの
平和はあたりまえ
食べ物はなくならない
停電なんて ありえない
みんながそこそこ 幸せで
みんあがそこそこ いい暮らし
そんなやさしい時代が
終わろうとしている
高齢化で 介護と医療費 増すばかり
下流老人 見捨てるか?
子供たちも 二極化で
子供の貧困 やむを得ぬ
でも ちょっと 待ったあ
やさしい時代を あきらめないで
障害施設は やっかいもので
安楽死こそ いい考えだ
病院施設も 医療費嵩む
安楽死こそ ナイス措置
日本の危機を 救うのは
インフレ 爆買い 原子力
でも でも でもね
でも でもね
本当にそうかな 空を見て
風も雲も 光ってる
宇宙に続く ブルースカイ
本当にそうかな 海へ行こう
波は自由だ 海鳥も
世界へ続く オーシャンブルー
やさしい時代を 捨てないで
やさしい時代を 諦(あきら)めないで
自分が50を超えると思うのですね。安楽死の権利は必要ではないかとか
返信削除そうでなければ、いずれT4の時代がくるのではないかと。