2016年10月15日土曜日

やさしさをあきらめないで(2)星になった盲導犬が命の車音を復活!

以前、このブログでも紹介しましたが、2015(平成27)年10月3日、徳島県徳島市の市道で視覚障害者の山橋衛二さん(50歳)が、盲導犬ヴァルデスを連れて散歩中にバックしてきたトラックにひかれて亡くなりました。
 山橋さんをひいたトラックは、バックの際に鳴るブザーのスイッチを切っていたので、山橋さんは気づきませんでした。

 この時、盲導犬ヴァルデスは、自分だけ逃げようと思えば逃げられたのに、山橋さんのそばを離れずに、ご主人の山橋さんを守るように、一緒にトラックにひかれて死んでしまいました。
 偶然にも、10月3日はヴァルデスの誕生日でした。
 ちょうど10歳の誕生日に、「やさしく人間に忠実な盲導犬」ヴァルデスは、ご主人と一緒に、星になりました。


 それから半年後、山橋さんとヴァルデスの交通事故の原因となった「車の警報音を切ってはいけない」ことが、徳島県の条例で決まりました。

 さらに、2016年10月、国土交通省は、ハイブリッド車(HV車)や電気自動車は走行音が静かすぎることで、視覚障害者や子供、老人などが気づきにくいとして、ガソリン車と同じレベルの走行音を出して周囲に接近を知らせる装置の取り付けを義務づけることを決めました。

 新基準では、ハイブリッド車や電気自動車が時速20キロ以下の低速で走行する場合には、「速度に応じて50デシベルから56デシベル以上」のガソリン車と同じレベルの大きさの音を出すよう定められました。
 また、高齢者でも聞き取りやすい低い周波数の音を加えることも求めています。

 国土交通省は、道路運送車両法の保安基準を改正し、新型車は1年半後の平成30年3月から義務づけられますが、すでに販売されている型の車についても、4年後の東京オリンピックが開催される2020(平成32)年から義務づけられることなりました。

 「静かな走りで環境にやさしい」車が主流になってきている中で、1人の視覚障害者と1頭の盲導犬が犠牲になった事故がきっかけとなって、「歩行者と盲導犬に命の音の出る車」が復活したことは、すばらしいと思います。
 やさしさを諦(あきら)めずに、ご主人を最後まで守って星になった盲導犬ヴァルデスの死が、無駄ではなっかたのだと思えて、胸が熱くなっています。


<写真 山橋衛二さんと盲導犬ヴァルデス>


盲導犬は、「身体障害者補助犬法」(平成14年10月施行)に基づいて認定された犬で、特別な訓練をうけていて、公共施設や交通機関をはじめ、飲食店やスーパー、ホテルなど様々な場所に同伴することができます。

 ヴァオルデスは、ラブラドール・リトリバーでしたが、これは日本の盲導犬では1番多い種類です。ほかに、ゴールデン・レトリーバーや1代雑種などもいます。
 1939(昭和14)年に、ドイツから日本に初めてきた盲導犬はシェパードでしたが、警察犬や猟犬にも使われる見た目がいかつい「シェパード」の盲導犬は減り、たれ目・たれ耳でやさしく見える「レトリバー」系が多くなったそうです。

 日本の盲導犬の実働頭数は、2016年3月末現在で966頭で前年より13頭減っています。
 都道府県の中で、1番多い東京都が99頭、次いで大阪府61頭、神奈川県59頭と続きます。それにしても、少ないですね。
 因(ちな)みにヴァルデスがいた徳島県は、ヴァルデスの事故死で1頭減って3頭となり、全国の都道府県で最低の数です。


<写真:盲導犬ヴァルデスが暮らし事故死した付近の徳島市東部>



  盲導犬は、生後2か月から1歳までは「パピーウオーカー」と呼ばれるボランテイア家庭で、愛情たっぷりに暮らし、人間への「愛とやさしい」を身につけます。

 1歳を過ぎると訓練センターに行き、いよいよ盲導犬の訓練が始まります。
 その際、1番先に教えられる言葉は、シット(座れ)やダウン(伏せ)などの命令の言葉ではなく、
GOODというほめ言葉だそうです。
 最初に、「パピーウォーカー」や褒め言葉の「GOOD」があるから、盲導犬はやさしい犬になるのですね。

 盲導犬は10歳前後(人間の年齢だと50歳ぐらい)で引退して、ボランテイアで受け入れてくれる家にもらわれたり、仲間の引退犬がたくさんいる施設で余生を暮らします。
 実はヴァルディスも、あと1週間で引退することになっていました。
 そのことを聞くと、最後までご主人のために働いたヴァルディスには、頭が下がる思いです。
 今は、夜空のどこかで、山橋さんと一緒に星になって、幸せに暮らしていると信じたいです。

 そして、「自動車の走行音を出すことを義務付ける」というニュースを空から聞いて、「GOODだ、ワン」と喜んでくれているはずです。


<一句>
「閑(しず)けさも 命の音は 消さぬ道」


0 件のコメント:

コメントを投稿