2016年10月20日木曜日

ボブ・ディランとノーベル文学賞 ~風に吹かれて・答えは風の中~

  2016(平成28)年のノーベル文学賞に、アメリカのミュージシャン「ボブ・ディラン」さんが選ばれました。
 村上春樹さんの受賞を毎年、待ちわびているハルキストには、申し訳ないけれど、私はスウェーデンアカデミーが、ボブ・ディランさんの「歌詞」の芸術性を高く評価したことに、賛辞を贈りたいと思います。

 村上春樹さんが嫌いということではなく、「小説」や「詩」と「(歌詞の)作詞」を同列に扱ったところが、革命的だと思います。

 考えてみれば、「詩」や「小説」のもとは、欧米では「吟遊詩人」や叙事詩、日本では「万葉集」などの抑揚をつけた和歌だったとも言えるので、本当は自然なことかも知れませんね。

 今後、世界の作詞家やシンガーソングライター、日本でも、さだまさしさんや中島みゆきさん、秋元康さんなども対象にならないかなと、少し期待してしまいます。


 ボブ・ディラン (Bob Dylan)さんは、アメリカ合衆国の中北部のカナダ国境にあるミネソタ州のダルースで、1941(昭和16)年5月24日にユダヤ系の両親の元で生まれました。

 生まれた時の本名は、「ロバート・アレン・ツィンマーマン(Robert Allen Zimmerman)」さんですが、後には芸名の「ボブ・ディラン」を法律上の名前にしています。
 彼の生まれた1941年は、アメリカと日本が太平洋戦争を始めた年です。

 ボブ・ディランさんの故郷ダルースは、五大湖の一つスペリオル湖の西岸にある港のある町で、人口は2010年現在で86,000人余りです。

<ボブ・ディランさんが生まれたアメリカ・ミネソタ州のダルース>


 ボブ・ディランさんは、小さい頃からピアノやギターを独学し、ハイスクール時代にはエルビス・プレスリーなどの影響で、バンドを組んで演奏しました。

 1959(昭和34)年9月、18歳のボブ・ディランさんはミネソタ大学に入学しますが、半年で授業に出なくなります。
 ミネソタ州最大の都市ミネアポリス(人口約40万人)を中心に、フォーク・シンガーとして活動をはじめます。

 この頃から、「ボブ・ディラン」を名乗り始めます。
 「ボブ」は本名「ロバート」のニックネームから取り、「ディラン」はイギリスの詩人「デイラン・マーレイス・トーマス(1914年~1953年)」から取っています。

 1961(昭和36)年、20歳になった年に、大学を中退してニューヨークに出ます。
 ニューヨークのクラブやコーヒーハウスなどで、フォークソングをギターで弾き語りをする活動をし、それがレコード会社の関係者の目にとまります。

 1962(昭和37)年3月に「ボブ・ディラン」というアルバムでレコードデビューしますが、5000枚しか売れませんでした。

 1963(昭和38)年に、2枚目のアルバム「フリーホーリン・ボブ・ディラン」を発売します。
 このアルバムは全英アルバムチャートで1位、アメリカ・ビルボードで22位になります。

 特に、このアルバムの中に収められていた「風に吹かれて(Blowin' in the Wind)」は、人気グループのピーター・ポール&マリーがカバーしてビルボード2位になり、ボブ・ディランの出世作であり代表作となります。

 「Blowin' in the Wind」は、「風に吹かれて」と日本後で訳されています。
 でも、英語の「Blowin」には「ひょっこり現れる」のような意味もあるので、もしかしたら「風の中からひょっこり現れる」を意訳して、「答えは風の中」と訳してもいいのかなとも思っています。

 では、「Blowin' in the Wind」」の1番の歌詞と、私なりの日本語訳を紹介します。


♪「Blowin' in the Wind(風に吹かれて ~答えは風の中~)」♪


How many roads must a man walk down
Before you call him a man? 
(いくつの道を 歩ききれば 人と呼ばれるようになるのだろう。)

How many seas must a white dove sail 
Before she sleeps in the sand? 
(いくつの海を 渡りきれば 白い鳩は 安心して眠ることができる砂浜にたどり着くのだろう) 

How many times must the cannon bolls fly 
Betore they’re forever banned? 
(どれぐぐらいの時間 砲弾が飛び交えば 永久の平和が訪れるのだろう)

The answer, my friend, is blowin’ in the wind 
The answer is blowin’ in the wind  
(友よ 答えは風の中にあるんだ 答えは風に吹かれている)


<「フリーホーリン・ボブ。ディラン」のレコードジャケット>




このあと、ボブ・ディランさんは、1963年8月の「ワシントン大行進」で演奏したり、ビートルズやローリングストーンズと交流したりしながら、50年以上にわたって、多くの楽曲を歌い・作詞・作曲し、グラミー賞を11回、アカデミー賞を1回受賞しています。(活動がたくさんありすぎて、詳細は今回は紹介しきれません。ごめんなさい。)

 日本にも、1978年の初来日から、2016年まで8回来日し、武道館やBunkamuraオーチャードホール、東京国際フォーラム、ライブハウスの「Zepp東京」(以上東京)などに加えて、大阪・名古屋・札幌・福岡・秋田・倉敷など、全国各地でコンサートを開催しています。
 また、奈良の東大寺でのコンサートにも参加しています。


 ボブ・ディランさんは、ビートルズやローリング・ストーンズをはじめ、多くの歌手・シンガーに影響を与えています。
 2016年のノーベル文学賞の受賞理由は、「米国の歌の伝統における新たな詩的表現を創造した」ということですが、ボブ・ディランの影響は「世界中」と言ってもいいと思います。

   日本でも「風に吹かれて」をカバーした歌手として、南沙織(みなみ・さおり 1976年)さんをはじめ、RCサクセッション(1988年)、BEGIN(2003年)などがいます。

 また「風に吹かれて」という同名の曲は、オフコース(1976年)、THE ALFEE(1986年)、森高千里さん(1995年)、エレファント・カシマシ(1997年)、JUDY AND MARY(1997年)、などの歌手が歌っています。

 さらに、ボブ・ディランの名前が歌詞に出てくる歌も、ガロの「学生街の喫茶店」(1972年)や吉田拓郎さんの「親切」(1972年)など、たくさんあります。
 主に、1970年代~1980年代が多いようですが、もちろんその後も、日本の音楽会に影響を与え続けています。


 それではこれらの中から、ボブ・ディランの日本への影響の大きさがよくわかる、ガロの1972年のヒット曲「学生街の喫茶店」と、森高千里さんの「風に吹かれて」の歌詞の一部を紹介します。



♪「学生街の喫茶店」(歌・ガロ、作詞・山上路夫、作曲・すぎやまこういち 1972年)♪



君とよくこの店に 来たものさ
訳もなく お茶を飲み 話したよ
学生で賑やかな この店の
片隅で 聴いていた ボブ・ディラン

あの時に歌は聴こえない
人の姿も変わったよ 時は流れた♪


<ガロ「学生街の喫茶店」のレコード・ジャケット>


♪「風に吹かれて」(歌・森高千里、作詞・森高千里、作曲・斉藤英夫 1995年)♪

遠いところへ行きたい どこか遠い所へ
あの空の彼方へ 行きたいな
名前も知らない街と 名前も知らない人
あの空の彼方の どこかまで 行ってみたいな

きのうの夜はごめんなさい 別れることが辛くて
泣いても泣いても 涙 止まらなかった
きのうの夜は あなたのこと 許せなかった私は
本当に本当に 今は忘れたいだけ
どこか 遠いところへ 行きたいな ♪


 ボブ・ディランさんは、75歳の今も、「ネバー・エンディング・ツアー」と題して年間に100回ものツアーを、世界中で続けています。

 いまでも、1963年発表の彼の曲「ライク・ア・ローリング・ストーン(転がる石のように)」、のタイトルのとおり、歌いながら旅をしているなんて、すごいですね。

 ノーベル文学賞の主催者からボブ・ディランへの連絡は、2016年10月19日現在、とれていないそうです。
 それでも、彼のノーベル文学書受賞は動かないので、授賞式への欠席で取り消されることはないそうです。

 世界中の「シンガー・ソング・ライター」の代表として、ぜひノーベル文学賞の授賞式に出席して、歌ってほしいものです。
 でも本当のところどうなるか、「答えは風の中」ですね。


<写真 台風一過で風に吹かれている雲?>


 最後に、あまりヒットしていませんが、ボブ・ディランへの思いがすごくよく表れている元アリスの谷村新司さんの「夢の世代♪」という歌の歌詞の一部を紹介します。
 けだし、名曲だと思います。
 ぜひ、ネットで検索してみて、お聞きください。


♪「夢の世代」(歌・谷村新司、作詞・谷村新司、作曲・佐藤隆 1983年)♪

夢の中で泣いたような 不思議なさわやかさを
残して流れ過ぎてゆく 俺たちの時代

今は何も語らないで 空を見つめているだけ
君は気づいているだろうか 風は吹いてる

ディランを聞いて こぶしを握り うなずいてた日
ビートルズを聞き乍(なが)ら 泣いてた

夢の中で泣いたような 不思議なさわやかさを 
残して流れ過ぎてゆく 俺たちの時代

FROM THESE DAYS
FROM THESE DAYS
今日も 風は 吹いてる ♪


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