闇もなほ、蛍のおほく飛びちがひたる
また ただ一つ二つなど
ほのかにうち光りて 行くもをかし
雨など降るもをかし」
これは、平安時代の女流作家として有名な清少納言<966(康保3)年~1025(万寿2)年>の「枕草子」の一節です。
彼女は、夏の風情の代表格として「ホタル(蛍)」を挙げています。
6月になって、いよいよ夏本番を向かえる今回は、古くから日本の夏の風物詩として親しまれている「ホタル(蛍)」を取り上げます。
<光るホタル>
ホタル(蛍)は、コウチュウ目カブトムシ亜目コメツキムシ下目ホタル科に分類される昆虫で、日本では本州以南に約40種類が分布しています。(世界では、約2,000種と言われています。)
日本のホタルの代表格は、ゲンジボタル(体長15mm前後)とヘイケボタル(体長8mm前後)ですね。
ゲンジボタルやヘイケボタルは、卵、幼虫、成虫ともに光りますが、これはホタル全般に言えることではなく、成虫が光るホタルの種類は以外と少ないそうです。
余談ですが、「ゲンジボタル」の名前は、「源氏物語」の主人公 「光源氏(ひかるげんじ)」に由来するという説もあります。
川岸の地中でサナギになり、1ヶ月ほどで成虫になり飛び立ちます。
「ホタルはエサを食べずに、露を飲む。」と、田舎で聞いたことがありました。
それで、捕まえたホタルには草に水を付けてやっていました。
私は、これは間違いだと、ずっと思っていました。
しかし、実は、これは俗説ではなく正しく、多くの種類のホタルの成虫は、口器が退化しエサを食べられなくなるそうです。かろうじて、水だけは飲めます。
「ホタル ダイエット」なるものが、できそうな気もしますが、水だけしか口に入れることができないので、成虫になって1~2週間で死んでしまいます。
「蛍二十日に蝉三日」と、旬の短いものの例えとして言われています。
優雅に光飛ぶホタルですが、本当は「いとあわれなり」ですね。
<群れるホタル>
ホタルというと「発光」が連想されますが、ホタルの光は腹部後方の発光器から出ています。発光物質は「ルシフェリン」というもので、ホタルの他にも、一部の深海魚や微生物が、持っているそうです。
ホタルの光は、非常に効率がよくほとんど熱を出さないため、「冷光」と呼ばれています。LEDより、効率のいい光源をホタルが持っているのは、驚きですね。
ホタルは、「火垂る」とも書きますが、これは、江戸時代の「大和本草」(貝原益軒著)によると、「ホタル。ホは火なり、タルは垂なり」とあり、飛翔している雄ボタルが、下で待つ雌ボタルの元へ一直線に光りながら降りる様を表したものです。
ホタルの光でもう一つ、不思議なことがあります。富士川のあたりを境に、西日本と東日本で、ホタルの点滅間隔が違っていて、西のホタルは約2秒ごと、東のホタルは約4秒ごとに点滅するそうです。
西のホタルはせっかちで、東のホタルはのんびり屋さんなのかも。
ちなみに、このホタルの東西の境界(富士川付近)は、電源周波数が東西で50MHZと60HZで異なる境界と、ほぼ一致するそうです。ますます不思議ですね。
「ホタルの光」と言えば、夏はホタルの光で、冬は窓の雪灯りで本を読んで勉強したという、 古代中国の「晋(しん)国の車胤(しゃいん)」 と言う人の「蛍雪の功」の故事が有名です。
「ホタルの光」の曲の歌詞にもなっていますが、計算上は、2000匹のホタルを集めても、その光で本を読むのは難しいそうです。
<右田年英(1863年~1925年)作 「五月蛍」>
おしまいは、「鳴かぬ蛍が身を焦がす」話です。
冒頭で、清少納言の「枕草子」の一節を紹介しましたが、清少納言と同じ平安時代に生きた源重之(不明~1000年)という歌人のホタルの歌が、「後拾遺和歌集」(1086年管制)の中にあります。
「音もせで 思いに燃ゆる 蛍こそ、鳴く虫よりも あわれなりけり」 (源重之)
これと同じ意味の和歌が、清少納言のライバル、紫式部(生没年不明)の作った名作「源氏物語」の第25帖「蛍」に書かれています。
「こゑはせで 身をのみこがす 螢こそ いふよりまさる 思ひなるらめ」 (紫式部)
これらの和歌を元に作られ、江戸時代に流行した「都都逸(どどいつ)」が、残っています。
「恋に焦がれて 鳴く虫よりも 鳴かぬ蛍が 身を焦がす」
「恋しい恋しい」と鳴く虫より、鳴かないホタルの方が、思いを募らせて、身を焦がす(光らせる)って、いい歌ですね。
「枕草子」風に言うと、「いとをかし」です。
おまけのトリビアです。 ホタルと言うと、思い出される童謡が、「ほ ほ ほたる こい」という、あの歌ですが、実は秋田県地方の「わらべうた」だそうです。 歌詞、全体を紹介します。 🎵「ほたるこい」 秋田県地方のわらべうた ほ ほ ほたる こい あっちのみずは にがいぞ こっちのみずは あまいぞ ほ ほ ほたる こい ほ ほ やまみちこい ほたるのおとさん かねもちだ どうりで おしりが ピカピカだ ほ ほ ほたるこい やまみちこい ひるまは くさばの つゆのかげ よるは ぽんぽん たかじょうちん 天じく あがり したれば つんばくろに さらわれべ ほ ほ ほたる こい あっちのみずは にがいぞ こっちのみずは あまいぞ ほ ほ ほたる こい ほ ほ やまみちこい ほ ほ ほたるこい ほ ほ やまみちこい あんどの ひかりを ちょっとみてこい ほ ほ ほたるこい ほ ほ やまみちこい ほ ほ ほ ほ ほ ほ ほ |
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