「夢は叶う 思い強ければ」
これは、去る5月28日に大腸がんのために亡くなった俳優の今井雅之さんの言葉です。
自衛隊→大学生→俳優と、異色の経歴をもつ今井雅之さんは、死の1ヶ月前の4月30日に、ライフワークとしていた演劇「THE WINDS OF GOD」の記者会見に、痩せこけた姿で出席し、「自分ががんで末期のステージ4である」ことを告白し、無念の舞台降板をしました。
病気と戦う勇気あるその姿は、神風特攻隊員のような、さわやかな感動を残しました。今回は、その今井雅之さんを偲んで、紹介します。
今井雅之(いまい まさゆき)さんは、1961(昭和36)年4月21日に、兵庫県城崎郡日高町で生まれました。
今井さんのブログの言葉を借りれば、「号泣県議の出張先」として有名になった城崎(きのさき)温泉の近くで育ったそうです。(もちろん、城崎温泉は志賀直哉の小説「城崎にて」でも知られる名湯です。)
<城崎温泉>
1980(昭和55)年4月、兵庫県立豊岡高校を卒業後、自衛官だった父の影響もあって、自衛隊に入隊します。
自衛隊では、滋賀県高島市の今津駐屯地にいた第3師団第3戦車大隊に配属されます。
ここで1年半、訓練を受けますが、「俳優になりたい」という夢の実現のために、1981(昭和56)年9月に、陸士長(上等兵クラス)で退職しました。
翌1982(昭和57)年4月、法政大学文学部英文学科に入学します。今井さんは青山学院大学にも合格していたそうですが、当時、悪役だった巨人の江川卓投手のファンで、江川が法政大学の出身だったから入学したそうです。
サザンオールスターズ(青山学院大学出身)よりも、江川を選んだということですね。世間の評判に左右されない今井さんらしい選択だと思います。
学生時代には、「真夏の青森~北九州間マラソン」や「真冬の北海道縦断(稚内~函館)」などの、サバイバルに挑戦しました。
ちなみに、今井さんは、空手道2段、柔道初段です。
1986(昭和61)年に法政大学を卒業すると、奈良橋陽子(1947年~)さん演出の「MONKEY」で、舞台デビューします。
その後、舞台、テレビ、映画など、数多くの作品に出演し活躍します。
舞台では、ライフワークとなり自ら脚本を書いた『THE WINDS OF GOD』(ザ・ウインズ・オブ・ゴッド)を1988(昭和63)年に初演し、20年以上、再演を続け、国内はもちろん、アメリカやイギリスでも上演します。
この作品は、1991(平成3)年に「文化庁芸術祭賞」を受賞しています。
テレビでは、NHK連続テレビ小説の「ノンちゃんの夢」(1988年)や「ええにょぼ」
(1993年)をはじめ、NHK大河ドラマ「花の乱」(1994年)、フジテレビ「お金がない」(1994年)、TBSの日曜劇場「仁ーJIN-完結編」(2011年)など、多くのドラマに出演しています。
個人的には、貧乏な織田裕二と借金取りの今井雅之さんが、次第に仲良くなっていく「お金がない」が大好きでした。
映画でも、「日本アカデミー賞優秀助演男優賞」を受賞した「静かな生活」(1995年)をはじめ。「WINDS OF GOD」(1995年)、「極道の妻たち NEO」(2013年)など、多くの作品に出演しています。
また、テレビのバラエテイ番組でも活躍しています。
テレビ朝日の「いきなり!黄金伝説」では、サバイバル生活を体験し、アリや蜘蛛などを平気で食べました。(ネット上の噂では、これが癌の原因だとも言われていますが??)
さらに、NHKの「英語でしゃべらナイト」では、得意の英語(英文科卒・英米で公演)で、あのトム・ハンクスにインタービューして、「あなたの英語はすばらしい」と褒められたりもしています。
<神風特別攻撃隊の出撃>
元自衛隊員で体力に自信があった今井雅之さんですが、2014(平成26)年の精密検査で、大腸癌が見つかり、医師からは「ここまで進行するには10年はかかる」「すぐに手術をしないと、あと3日しか持たない」と伝えられました。
「絶対に治す」「再び舞台に立つ」と、強い意志でがんばった今井雅之さんですが、悪化する病気には勝てずに、2015(平成27)年4月30日に、「THE WINDS OF GOD」の舞台降板を決意し記者会見をします。
そして5月28日午前3時5分、東京都内の病院で亡くなられました。享年54歳でした。
今井雅之さんの2015年4月1日のブログの一部を紹介します。
「思えば、中1の時に映画にはまり、
いつか映画に携わる仕事がしたいと思った中1の10月からもう早40年。
ほんまに夢は叶う思い強ければやな!!
もちろん9月の(製作中映画の)クランクアップまで色々あると思いますけど俺は絶対に負けない!!
絶対にクランクアップという頂上に登るまで頑張ります!
楽しみます!
夢を追っかけます!
ありがとうみんな!」
(公式ブログ「今井雅之の押忍!」2015年4月1日より)
今井さんの夢が叶わず、本当に残念ですね。
最後に、今井さんの亡くなる前日のエピソードを紹介します。
今井雅之さんは、自衛隊出身で神風攻撃隊を題材にした舞台をライフワークとしていましたが、、『THE WINDS OF GOD』公演の最後には涙ながらに「NO MORE WAR!」と叫ぶなど、反戦の意識も強かった俳優さんでした。
その今井さんは、「戦後70年目」の2015年の舞台公演の千秋楽の地に、激戦地「沖縄」を選んでいました。
5月31日がその日で、今井さんも沖縄の舞台挨拶に行くことを切望していました。
その4日前、5月27日(死の前日)に、ベッドで苦しむ今井雅之さんの部屋に、スタッフが訪れて「沖縄公演のポスター」と、ファンの手紙や千羽鶴などを渡しました。
今井さんは喜び、部屋から帰るスタッフに「最後の敬礼」をして、見送ったそうです。
もしかしたら、今井雅之さんは、かつての神風特攻隊員のように敬礼をして、「癌という最強の敵に体当たりしてくるよ」と、言いたかったのかも知れません。
<千羽鶴>
一句
・夢叶う 信じた勇士が 風になる
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