2016年6月13日月曜日

クマ襲撃で4人死亡<秋田県> ~日本の人食い熊伝説とサバイバル法~ 

 秋田県の北東部、青森県との県境近くの鹿角市(かづのし)の山林で、ツキノワグマの被害が相次いでいます。
 2016(平成28)年5月に、タケノコや山菜取りに行った高瀬佐市さん(79歳)、高橋昇さん(78歳)、高谷善孝さん(65歳)の男性3人が、次々にクマに襲われ死亡しました。

 さらに、6月10日には、初めて女性の被害者・鈴木ツワさん(74歳)が、タケノコとりに行った山中でクマに襲われ死亡しました。
 これで、1ヵ月足らずの間に、合計4人もの死者が出ています。

 また、6月11日には、岐阜県飛騨市で観光客がクマに襲われてケガをするなど、全国各地でクマの被害が相次いでいます。

 特に秋田県の事件では、死体は熊に「かじられて」損傷が激しく、「人食い熊」が出現した可能性が濃厚です。

 「アメリカ大陸にいるグリズリーならともかく、日本のクマが人を食べるなんて、本当にあるの?」

 そう思われた方も多いと思いますが、実は日本でも「凄惨な人食い熊」の事件がいくつも伝わっています。
 今回は、ちょっと怖いですが、そんな事件の中から代表的なものを紹介し、クマへの対処法も紹介します。


<写真 本州・四国に生存するツキノワグマ>




  まず最初は、今から100年以上前の1915(大正4)年に、北海道東北部の、北海道苫前郡苫前町(旧:苫前村)で起こった「三毛別羆事件(さんけべつひぐまじけん)」です。

 1915年11月30日、池田富蔵さんをはじめ、マタギ(熊打ち猟師)など4人が、自宅の馬を狙った巨大なヒグマを駆除しようと発砲しますが、傷を負わせて取り逃がしてしまいます。
 結果的に「手負いの熊」が、山林を彷徨(さまよ)うことになりました。

 それから9日後の12月9日の朝、三毛別川上流にある太田家に、巨大グマが侵入します。
 その時、主人の太田三郎さんら成人男性は留守でした。
 家に残っていた三郎さんの内縁の妻の阿部 マユ(34歳)さんと太田家に預けられていた少年・蓮見幹雄(6歳)ちゃんの2人が、巨大グマに襲われ、幹雄ちゃんは死亡し、マユさんはクマに山林に引きずり込まれ行方不明になりました。

 翌12月10日には、明景家に親子で避難していた斉藤タケさん(34歳)とお腹の胎児、タケさんの三男の斉藤巌ちゃん(6歳)、四男の春義ちゃん(3歳)の4人と、明景金蔵ちゃん(3歳)の5人が、急襲したクマに殺害されました。

 住民や応援の猟師などの必死のクマ狩りの結果、12月14日、ついに7人を殺害した巨大クマは銃殺されました。
 ヒグマは金毛を交えた黒褐色の雄で、重さ340kg、身の丈2.7mにも及び、腹の中からは阿部マユさんの下着はもちろん、他の地域で行方不明になっていた複数の女性の衣服も見つかったと伝えられています。

<写真 三毛別事件の現地での復元模型>
 (実際のクマがでることがありますとの注意書きがあります。 《恐い》)




  「三毛別事件」は100年以上前の出来事ですが、今から45年前の1970(昭和45)年7月にも、福岡大学のワンダーフォーゲル部の5人が北海道日高山脈の「カムイエクウチカウシ山(1979m)」付近でヒグマに襲われ、うち3人が死亡する「福岡大学ワンゲル部ヒグマ襲撃事件」が起こっています。

 この事件は、福岡大学ワンゲル部の5人が、7月25日から27日まで1頭のヒグマに執拗に付きまとわれて、そのうち、竹末一敏さん(20歳)、興梠盛男さん(19歳)、河原吉孝さん(18歳)の3人が犠牲になりました。

 襲ったクマは4歳のヒグマで、7月29日にハンターに射殺されました。
 このクマは、人間を捕食していなかったので、いったん自分が漁って自分のものと意識した「荷物」を持ち出した学生たちを、怒って追い掛け、殺害したものとも言われています。

 ちなみに、学生たちがクマに出会った「カムイエクウチカウシ山」とは、アイヌ語で「クマが転げ落ちるほど険しい峰」という意味です。

 これら2つの事件は、いずれも北海道に生息する「ヒグマ」が北海道内で起こした事件で、それよりひと回り小さい本州・四国に自生(九州は絶滅)するツキノワグマが人間を殺害するのは珍しいと言われています。
 
 もし秋田県鹿角市で4人を殺したのが同じクマだとしたら、「ツキノワグマが起こした史上最悪の殺害事件」だと言えるのではないかと思います。


<地図 「平成の人食い熊事件」が起きた秋田県鹿角市>






 それでは、クマの被害にあわないためには、どうすればよいのでしょうか?
 専門家のアドバイスを紹介します。

(1) 出会わないことが一番大切

 基本的にツキノワグマは、木の実などを食べる臆病な生き物ですが、人間にとって「安全な生き物」でないというのも事実です。
 ですから、何より「出会わない努力」が大切で、「クマ出没注意」の看板などがあるクマの生息地へは入らないことが一番です。


(2) 音を出して、こちらの存在を知らせる

  どうしても、クマと遭遇する可能性のある場所に入る時には、なるべく多い人数で行動し、鈴や笛などの音が出るものを鳴らすなど、「遠くのクマにこちらの存在をわからせる」ことが大切です。

  定期的に、棒で木を叩きながら進むのも効果的です。
 そうすればクマのほうから、距離をとって離れていきます。

 ただし、ラジオは、クマの気配に気付けなくなるためかえって危険です。こちらがいつでも音を出せて、いつでも静かにまわりを伺えるということが、遭遇リスクを下げます。


(3) 遭遇したら、視線をそらさずゆっくり後退(走って逃げたり死んだふりは厳禁)

 万一遭遇してしまった場合、まずは「落ち着くこと」です。
 距離が何十メートルも離れている場合は、ツキノワグマから「視線をそらさずに、ゆっくり後ずさり」して距離をとります。

 クマは、「背を向けて逃げる獲物を追いかける習性」がありますので、うかつに背を向けて逃げたりすればほぼ間違いなく追いかけられます。
 ちなみに、ツキノワグマの走る速度は50km/h以上で車並みですので、間違いなく追いつかれて、背中から襲われますので、背を向けて逃げるのは厳禁です。

 また、クマは死んだ動物も食べるので、童話にある「死んだふり作戦」も危険です。それから「火」も恐れませんし、「木登り」も苦手ではありません。



(4) 武器の準備

 ゆっくりと後ずさりしつつ、威嚇的な行動をせずに武器の準備をします。
 クマ対策の「唐辛子スプレー」などを持っているなら準備をし、なければ固くてリーチのある、武器になりそうなもの、たとえば「木の枝」などを用意します。
 何も見つからなければ、そのへんの石でもないよりはマシです。

 ただし、距離をとって逃げ切るのが良策で、武器の用意はあくまで最悪の手段への備えです。


(5) 最終手段は「鼻先一点」を狙って戦う!

 うまく逃げ切れたときはいいのですが、相手が人食いクマなどで、こちらに積極的に近づいてきてしまったり、曲がり角などで、バッタリ出会ってしまったりして、数メートルしか距離がない場合は、覚悟を決めて戦いましょう。

 「そんなバカな」と思うかもしれませんが、この状況になった場合に、一番生存率が高いのは戦うことです。
 走って逃げ切るのは不可能ですし、死んだふりも通用しません。
 この状況になって、無事に生還した人のほとんどは戦っています。

 ただし、身体能力では人間はクマに絶対に勝てませんので、狙うのは「倒すこと」でなく、「戦意喪失させて逃げてもらうこと」になります。それで、狙いは「急所の鼻先」一点です。
 
 撃退スプレー、ナタ、杖の類のような持っていれば先制攻撃できますが、武器が見つからない場合には、落ちている石やカギの刃が拳から出るように握り込んだりして、鼻先を狙います。
 とにかく「鼻先に攻撃」を叩き込めれば、命を落とさずにすむかも知れません。


(6) 最後まで抵抗する!

 クマに覆いかぶされたり噛み付かれたりしてした場合でも、「とにかく抵抗」してください。じっとガードしていても、殺されるのを待つのみです。

 ロシアでは、18歳の女性が、ロシアのツキノワグマに噛みつかれながら「ママ、助けて。今、クマに食べられているの。」と携帯電話で数分間話したそうですが、彼女は最後には食べられて絶命しました。

 とにかく手や足が動くなら、ツキノワグマの目や鼻がある位置をめがけて、パンチやキックを全力で出し続けてください。一発でも入れば相手はビックリして逃げていく可能性があります。
 最後まで、追い払える可能性だけは放棄しないことが重要です。

<写真 クマに注意を呼びかける看板 (秋田県鹿野市の現場付近)>




 秋田県の人食い熊は、遠い昔の話ではなく、平成28年の現実の出来事です。

 猟友会が、近くで1頭のクマを射殺したそうですが、それが「人食い熊」かどうかはわかっていませんし、もしかしたら複数いるのかも知れません。
 安全が確認されるまで、ともかく「クマ出没注意」の場所へは、近づかないのが1番です。

 特に、今年は例年にない猛暑が予想され、動物たちも異常な行動をする可能性があります。
 秋田県や北海道の方はもちろん、他の地域の方もクマや毒ヘビ(まむし、ハブ)、スズメバチなど、日本の野山にも命の危険がある動物や虫がいることを前提に、注意してください。


<写真 シバ犬 >




 最後に、いい話(実話)を一つ。

 今回話題の秋田県の大館市で、2015(平成27)年7月の夕方、河川敷に、80歳のおじいちゃんと5歳の男の子が、シバ犬を連れて、軽トラで散歩に出かけました。

  男の子は、到着後すぐに車のドアを開けて土手を下りていきました。
  おじいちゃんが、リードを外し終わると、シバ犬も男の子を追って一直線に土手を下りました。

 すぐに、シバ犬の「普段は聞いたことのないような」大きな鳴き声が聞こえてきたので、おじいちゃんはあわてて下りていくと、男の子が泣きながら戻ってきました。


 川の方に目を向けると、クマが山の方向へ逃げていく姿が見えました。
 男の子の服は破れ、背中やお尻などにはひっかき傷があった。

 泣きながら、男の子が言いました。
「わーん、おじいちゃん。熊が出て怖かったけど、ワンちゃんが大声で吠えて熊を追い返して、助けてくれたんだよ。」
 
 男の子の後ろでは、泥だらけになったシバ犬が、嬉しそうにしっぽを振っていました。 
 
 

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