「最後の一葉(原題 The Last Leaf)」は、アメリカの短編小説家O・ヘンリーが1905(明治38)年に発表した作品です。
O・ヘンリーについては、2年前(2015年12月23日)の本ブログで「賢者の贈り物」を紹介しましたが、今回の「最後の一葉」も彼の代表作の一つです。
まず、前半の部分の「あらすじ」を紹介します。
ワシントンスクエア(アメリカ、ニューヨーク市の下町)に、芸術家たちが集まる「グリニッジ・ヴィレッジ」という迷路のような小さな町があります。
この町にある、煉瓦造りの3階経てのアパートの最上階に、スーとジョンシー(ジョアンナの愛称)という2人の若い女性の画家の卵が共同でアトリエを持っています。
彼女ら2人が出会ったのは5月でしたが、11月には<ミスター肺炎>がこの町を襲い、何十人という犠牲者を出しました。
そしてミスター肺炎は、ジョンシーに襲いかかりました。
ジョンシーは、鉄のベッドの上で動けなくなり、小さな窓から見える煉瓦造りの隣の建物の壁を、見ているだけになりました。
ある朝、ジョンシーを見た医者は、スーを廊下に呼び出して言いました。
「助かる見込みは、十に一つと言っていい。その見込みも、あの娘が生きたいと思うかどうかにかかっている。」
医者が帰って、スーは部屋に戻りました。
「12、11、10」
ジョンシーが窓を見ながら、何かを数えています。
「9、8、7」
スーは心配そうに窓の外を見て、ジョンシーに尋ねました。
「ジョンシー、何を数えているの。」
「6つ。蔦に残っている葉っぱの数を数えているの。
3日前には100枚もあったのに、だんだん落ちるのが早くなっていくの。
あっ、また落ちた。あと5つ。
あの葉っぱが全部落ちたら、私もこの世から、さよならするのに違いないわ。」
スーは、無理矢理、大声で笑いました。
「そんな馬鹿げたこと、聞いたことないわ。」
ジョンシーは首を振って答えました。
「ほらまた落ちた。これであと4枚だわ。
もうすぐ最後の1枚が落ちるわ。それを見たいの。
そしたら、私もさようならするわ。」
「ジョンシー、お願い。
私が絵を描き終わるまで目をつむってて。それまで窓の外を見ないと約束して。」
「じゃあ、明日の朝、一番にあの蔦を必ず見せてね。」
そう言うと、ジョンシーは目を閉じ眠りました。
(後半につづく)
<「最後の一葉」の舞台、ニューヨーク市のグリニッジ・ヴィレッジ>
二十歳頃からはテキサスに住み、薬剤師、銀行員、ジャーナリストなどの職を転々としました。
1896年、34歳の時に以前務めていた銀行についての「横領の疑い」で起訴され、1898年に懲役8年の有罪判決を受けます。
この服役中から、彼は、多くの作品を書きます。
1901年に出所し、1902年にニューヨークに移り住み、新聞社と毎週1本のペースで掲載小説の契約をしました。
「最後の一葉」は、1905年に書かれたものです。
ちなみに、ペンネームの「O・ヘンリー」は、かわいがっていたネコのヘンリーを呼ぶときの「おーいヘンリー」から、名付けられたとも言われています。(諸説あり)
1910年6月5日、O・ヘンリーは、肝硬変になり47歳で亡くなりました。彼の生涯で381作品が掛かれ、その多くが短編です。
代表作は、「最後の一葉」のほか、2年前に紹介した「賢者の贈り物」、「二十年後」などです。
それでは、「最後の一葉」の後半を紹介します。
病気のジョンシーが眠るのを見届けたスーは、階下の部屋の老画家のベールマン老人のところへ行って、彼に絵のモデルになってもらいました。
ベールマンは「いつか傑作を描く」と言っているうちに、老齢になってしまった売れない画家でした。
スーは絵を描きながら、ベールマン老人に、ジョンシーの話をしました。
ベールマン老人は、叫びました。
「蔦の葉が落ちたら自分も死ぬなんて、なんて馬鹿げた考えだ。
ああ、ここは、ジョンシーのような善良な娘が病気で寝るようなアパートじゃない。
いつか私が傑作を描いたら、みんなでもっといい所へ引っ越そう。」
その夜、3人が住むアパートを、雪交じりの雨と暴風が襲いました。
スーは、「暴風雨であの蔦の葉が全部落ちるだろう」と思うと、眠れませんでした。
朝が来ました。
「スー、窓のカーテンを明けて。葉っぱが全部落ちているのを確認したいの。
そして、私はさよならするの。」
ジョンシーに言われて、スーは、カーテンをおそるおそる開けました。
「あっ。」
スーとジョンシーは、思わず顔を見合わせました。
なんと、あの暴風雨の中で、蔦の葉が1枚だけ散らずに残っていたのです。
それから何日たっても、最後の一葉は散らずに残っていました。
やがて、ジョンシーは、最後の一葉を心の支えに、次第に回復していきました。
何日かして、医者はスーに言いました。
「もうジョンシーの病気の危機は脱したよ。君の勝ちだ。
ただ、このアパートの下の階のベールマンという老人が、今日、同じ肺炎で亡くなっよ。」
「えっ、突然ですね。この間まで、ベールマンさんは元気でしたのに。」
スーが驚いて聞くと、医者は答えました。
「この間のひどい嵐の夜、
ベールマンさんはずぶ濡れになって、部屋に帰ったきたそうだ。
そのあと、急に肺炎になって、高齢だから亡くなったんだよ。」
スーは、あわてて隣の建物の壁の「最後の一葉」を見に行きました。
やっぱり、スーの思ったとおりでした。
スーは部屋に戻って、ジョンシーに静かに言いました。
「ジョンシー。窓から、あの壁の最後の一葉を見てみて。
風が吹いているのに、ひらひらもしなければ、動きもしないのは不思議だと思わない。
あれは、ベールマンさんの傑作なのよ。」
「えっ。そういえば。」
ジョンシーは驚いて、起き上がりました。
スーは続けました。
「この前の嵐の夜、ベールマンさんは、あなたを助けるために、葉っぱの絵を描いたのよ。
最後の一葉という、傑作を描いたのよ。
おかげで、ベールマンさんは肺炎になり、今朝、亡くなったわ。
でも、ジェンシーがよくなって、ベールマンさんは本望だと思うわ。」
<写真 紅くなった葉っぱ>
クリスマス・年末に紹介したい名作として、今回は「最後の一葉」を紹介させていただきました。
もちろん、この小説は、「クリスマス」をテーマにした作品ではありません。
でも、ベールマン老人は命がけで、若い女性画家ジョンシーに、「生きる気力」というプレゼントを贈ったのですから、まさにクリスマス・プレゼントだと思います。
クリスマスの時期は、キラキラしたイルミネーションに隠れて、本物を見失いがちです。
本当に大切なものは何か、今夜、静かな静かな冬の夜に考えてみませんか。
最後に「じゅんくう詩集」から、1詩、紹介します。
詩「最後の一葉 ~クリスマス・イブの奇跡~」
ヒューヒュー
ブルブル
ピュー ピュー
ブルブル
木枯らしが唸る
クリスマス・イブの夜に
O・ヘンリーの「最後の一葉」を読んでいた
生きる気力を失った
病身の若い画家の女の子は
「あの葉っぱが全部散ったら 私の命もさようなら」
と窓の枯れ枝の葉に命を預けた
あと10枚
あと7枚
あと5枚
残り少ない 葉っぱがヒラヒラと落ちてゆく
その夜
嵐のような雨と風が
葉っぱたちを襲った
翌朝
「きっともう散っている」
そう思って開けた窓から見た枝に
1枚だけ 葉っぱが残っていた
いく日たっても散らない
希望の葉っぱに
女の子は
勇気と元気を取り戻していった
でも
その影で
嵐の中で 生涯最高の傑作
「最後の一葉」を描いた
老画家は
肺炎になり
ひっそりと命を散らしていった
<クリスマスのLEDイルミネーション>
100年前の小説「最後の一葉」をポケットに
ぼくは 華やいだ イブの街を彷徨う
時間が過ぎても
人の心は 変わらない
人に勇気と元気を与えられるのは
言葉ではなく 行動
一生懸命の背中を
子供に見せていこう
そう誓う
メリー クリスマス
(じゅんくう詩集より 2017年12月24日)
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